メンタルヘラってる

 海外赴任が決まりました。

 

 お久しぶりです。今年夏、9月付けで就職しました。

 フリーターというかフリーランスというか、そんな感じの生き方がしたかったんですけどね。あまりにもブラブラしすぎていたので親戚に「コネを使ってやるからちゃんとしたところに就職しろ」と散々言われ、多分大学や会社といった枷すらなくしてしまうと産業廃棄物が誕生するだろうなという実感があったので、就職してしまいました。

 

 弱いなぁ、本当に。

 僕にフリーでやっていけるだけの能力があれば、ちゃんとクリエイターとしてやりたいことだけやって生きる生活が出来ただろうに。

 でも好きなものに生活全てを賭けるってのが危険な道なのも知ってる。万が一僕の感性が社会からズレた時、面白いものを作れない=死の危険性があるわけだから。だから創作活動なんてものは趣味に留めておいて、本業をやりつつサブで這い上がっていく方が賢いのも分かってる。ただ、賢さではなく狂気というか覚悟のようなものが、クリエイターにとって必要なのだろうなとも僕は思っており――――

 

 まぁうだうだ言っても仕方ない。もう雇われの身だ。

 

 そして雇われの身からもう一つ、海外赴任が決定しました。

 地獄だ。マジで。

 行き先はタイ。これを書いている今、海外赴任のための研修を受けている真っ最中である。頭おかC。

 9月頭からお仕事してるんだけど、そこからだいたい2週間研修で、親のコネではなく一次面接から僕はしっかり自力で上がってきていたため、時期こそ半年近く違うが院卒新卒と同じ身分で雇われているはずである。

 が、海外赴任である。まだ入って一ヶ月足らずのこの時期にだ。頭おかしいだろマジで。

 

 理由はいくつかある。

 まず僕が海外に行ける人間だからだ。英語力と資格とパスポート、そして単身海外赴任に「〇」をしてしまっていること。僕はこれら四つの海外赴任条件を満たしている。

 次に欠番。どうにもタイの支部で恐ろしい数の欠員が出たらしく、また時期が時期なので本社の人間に空きがない。とにかく日本人の正社員の頭数が欲しかったので、新入りの極みのような僕にもお鉢が回ってきたらしい。

 

 これ以上書くと身バレしそうだから口をつむぐが、猫の手を借りたいぐらい今大変らしい。

 だから会社様もかなりお給金に色を付けてくれてるし、一般的に言えば海外出向は「出世ルート」だ。役員以上に上がるには皆、海外で2~5年の経験を積んでくるのがうちの会社の王道ルート。それを鑑みれば僕は恵まれているのだろう。

 実際待遇は超絶ホワイトだ。今は海外赴任のための検査であったり、語学や向こうでの仕事内容の研修を行ってもらっているが、指導役をしてくれる人事の人はマジで腰が低い。事あるごとに「ごめんね君達、本当にごめんね。頑張ってね。お金は出すし、要望にも出来る限り答えるからね。ごめんね」って言ってくる。憎めない。

 

 が、辛い。

 住んでいたアパートにようやく戻れたので最期のインターネットを楽しんでいるのだが、涙が出てくる。だってタイだぞ。日本じゃないのだ。もう気軽に自宅には帰ってこれないし、オンラインゲームも出来ないかもしれないし、友達にも逢えない。日本語以外が飛び交う国だ。強盗や殺人の比率も高い。何より絶対忙しい。忙しいんだ。

 いや、分かってる。幸せなんだよ僕は。恵まれてるんだ。別にタイに行っても死ぬわけじゃない。やろうと思えばゲームも出来るし、ネットサーフィンも出来る。友達とも連絡できるだろう。良いところだっていっぱいある。棲めば都とも言う。何も悲観する理由がない。そうだろ? 分かってるんだ。

 

 でも、涙が止まらないんだよ。

 僕おかしいのかな。アパートに二週間ぶりぐらいに戻ってきてさ。エレベーターで自分の階層を押してさ。電車でずっとタイについて調べながら、必要な物書き出したりしてたのが、エレベーターに乗ってる最中にわって頭に浮かんできて。で、次の瞬間には涙が零れてたんだよ。

 あぁもう帰れないんだなって。来るところに来てしまったし、行ってしまうことになるんだなって。今から愛しの安心できる我が家に戻るっていうのに、明日にはまた電車に乗って本社行って、明後日には飛行機に乗る。それを想像しただけでどうしようもなくなってしまって、涙が出るんだよ。

 

 寂しさなのか? 悲しさなのか? 絶望なのか? 諦念なのか?

 分からない。この感情が何なのか、何に対して泣いているのか、僕自身にも分からない。

 

 一つ言えるのは僕が弱いということだ。

 死が決まったり、重病が見つかったわけじゃないんだ。左遷されたり、退職するわけじゃないんだ。たった数年、海外に行くだけ。それも給料は良いし、年に何度かは帰ってこれる。

 これで泣くっておかしいよなぁ。僕と一緒に行く人たちと話してても分かる。彼らは不安も抱えていたけれど、喜んでいた。見えないところで泣いていたかもしれないけれど、それでも僕より何倍もやる気があって、未来に明るい展望を抱いていた。

 

 僕だってそりゃあるさ、喜びぐらい。

 新天地がどんなものなのかなっていう期待。そんなワクワクもそりゃ、少しはある。

 でも涙が出てきた時に理解した。僕は皆と逆だ。当たり前の不安と、当たり前のワクワク、じゃあない。不安を隠すための少しのワクワクと、漠然とした巨大な不安がずっと、頭の中をぐるぐると泳いでいる。

 

 うっとおしい思考だ。僕でもそう思う。

 ただそれでも、涙が時々零れてくる。家に付いてからずっと不安定な胸中でいる。波のように訪れる、一定間隔の泣き虫タイム。不安で不安で仕方がない。今逃げだしたらどうなるのだろうという弱気な思考。今すぐ本部の人に泣いて許しを乞えばタイに行かずに済むのではないかという甘え。実は明日の朝起きたらタイ行きは失くなっていて、残念そうな顔をしながら内心喜びつつ前の職場に戻れるんだ、なんて。

 そんなあり得ない仮定の話を、もう何度、考えたんだろうか。

 

 でも、何をうだうだ言ったところで未来は変わらない。

 ここで走って逃げだすという選択肢もあるだろうが、逃げるのはタイに行ってからでも出来る。そもそも逃げたらほぼ退職だ。左遷は免れないだろう。こんな時期に就職させてくれただけでも有難いほどの大企業様なのだ。これほどホワイト待遇をしてもらっておいて裏切るような真似は出来ない。

 

 だから、やるしかないのだ。

 覚悟を決めないと。僕はやるんだ。やるしかないんだ。頑張れ。きっとできる。

 

 ただ、今日だけはちょっと泣く。

 逃げたい。でも、逃げたらダメだ。頑張らないと。

 明日からは気持ちを入れ替えて、しっかりと教わったことを反復しながら、明後日のために準備していこう。